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第6章 BCS-OS — あなたの脳を経営する技術

なぜ「OS」と呼ぶのか

ここまでの5章で、あなたは以下のことを手にしました。
  • 世界が「脳の資本」を語りはじめた時代の地殻変動の認識(第1章)
  • AIに代替されない、状態としての人間の優位性(第2章)
  • 「鍛える」から「整える」への脳との付き合い方の転換(第3章)
  • 運動が脳に与える神経科学的な効果(第4章)
  • 食事が脳のコンディションを決める仕組み(第5章)
これらは、それぞれ独立した話に見えるかもしれません。
しかし、本当はぜんぶつながっています。
そのつながりを、ひとつの設計図として、あなたの目の前にお見せします。
これが、本書最後の章であり、本書を超えてあなたの人生に持って帰ってもらいたい、唯一のものです。
私たちUNLOCKは、この設計図を、BCS-OS (Brain Capital System Operating System) と名付けました。
OSというのは、コンピュータの世界では、すべてのアプリケーションの土台として動く基本ソフトウェアのことです。
ワードもエクセルもブラウザも、OSの上で動きます。OSが不安定だと、どれだけ高性能なアプリも使い物になりません。
人間の脳にも、同じことが言えます。
あなたが、「仕事」「家庭」「趣味」「人間関係」というアプリケーションを動かしているとして、それらの土台になっているのが、あなたの脳のコンディションです。
BCS-OSは、あなたの脳という個人のOSを、意識的に経営するための設計図です。

BCS-OSの全体像

BCS-OSは、3層×3要素=9セルの構造を持っています。
要素1要素2要素3
積立層(何を蓄積するか)認知資本情動資本社会資本
整える層(どう状態を整えるか)睡眠動き+認知余白
使う層(蓄積を社会で発揮)仕事関係自己実現
3層は、それぞれ違う役割を持ち、循環しています。
  • 積立層は、毎日の習慣で「貯まる」もの。3つの資本の総和が、あなたの脳の力の正体です。
  • 整える層は、積立を可能にする「土台」。これがないと、何を学んでも記憶に定着しません。
  • 使う層は、積み立てた資本を「発揮する」場面。仕事、人間関係、自己実現で、資本が現れます。
そして、使う層での経験が、次の積立層にフィードバックされる。
つまり、3層は閉じたサイクルではなく、循環構造になっています。
整える → 積み立てる → 使う → 経験から次の積み立てへ
これが、人生という長い時間軸で回り続けると、あなたの脳の資本は、確実に複利で増えていきます。

各セルを、もう一度詳しく

積立層

認知資本は、思考、記憶、論理、好奇心、学習能力。
学校で測られ、職場で問われる「能力」のうち、もっとも見えやすい部分です。
情動資本は、自分の感情に気づく力、コントロールする力、立て直す力、レジリエンス。
EQ(感情指数)とほぼ同じ領域です。
社会資本は、共感、協調、関係構築、場の認識、信頼を結ぶ力。
他者との関係の中で発揮される能力です。
これら3つが揃って初めて、人は社会で本来の力を出します。
認知だけ高い人は、組織で詰まります。情動だけ高い人は、行動できません。社会だけ高い人は、中身が薄くなります。
3つの調和が、本書を通じて主張してきた「脳の資本」の正体です。

整える層

睡眠は、すべての土台の土台です。1日7時間以上、できれば質の良い睡眠。Vol.1で詳しく扱いました。
動き+認知は、第4章で扱いました。1日20分の運動、できれば「動きながら考える」要素を加える。これが、脳の構造そのものを変える、もっとも強力な介入です。
余白は、ぼんやりする時間、何もしない時間。デフォルトモードネットワークが活性化し、創造的統合が進む時間です。
現代人がもっとも失っているリソースです。

使う層

仕事は、専門性、判断、創造、貢献。脳の資本が、社会的価値を生む場面。
関係は、家族、友人、地域、職場での関わり。人間が本能的にもっとも幸福を感じる領域。
自己実現は、自分の意志での選択、人生設計、意味づけ。

なぜ、9セルなのか

「9セル」というのは、いささか恣意的に思えるかもしれません。
3層×3要素なら、12でも、さらに多い要素にもできる。
しかし、私たちは意識的にこれを9に絞りました。
ひとつめ、人間の短期記憶の上限
人間が一度に頭に保持できる項目数は、5〜9個と言われています(マジカルナンバー)。9セルは、その上限ぎりぎりです。
ふたつめ、3×3という構造の覚えやすさ
3層と3要素の組み合わせは、表として直感的に把握できます。
整える3つ × 積み立てる3つ × 使う3つ。
これが、BCS-OSの覚え方の基本です。

あなたのBCS-OS、簡易診断

9つのセルそれぞれを、10点満点で自己採点してください。
セル採点(0〜10点)
認知資本(思考、記憶、好奇心)
情動資本(感情の安定、レジリエンス)
社会資本(人間関係、共感)
睡眠(時間と質)
動き+認知(運動習慣)
余白(ぼんやり時間、回復)
仕事(専門性、貢献感)
関係(家族、友人)
自己実現(自分の意志での選択)
ほぼ間違いなく、ひとつのセルが、他のセルより極端に低くなっているはずです。
それが、あなたの脳のコンディションの「ボトルネック」です。
9セルのうち、ボトルネックを特定し、そこに集中して90日の改善を投じる。
それだけで、脳の資本全体が、別物に変わります。

「90日の経営」を回す

私たちUNLOCKが現場でクライアントに提案しているのは、90日サイクルの経営です。
  • まず、9セルを採点する
  • 最弱のセルを1つ特定する
  • そこに対する具体的な行動を1つだけ決める
  • それを90日続ける
  • 90日後に、再度9セル全体を採点する
このサイクルを、年4回回します。
1年で、4つのボトルネックが改善されます。
2〜3年で、9セルのほぼすべてが平均7点以上の水準に押し上げられます。
「9セル全部を一度に改善しよう」は、絶対にやらないでください。
人間の脳は、複数の習慣を同時に変えるようにできていません。
1つに集中することで、複利の力が働きはじめます。
これは、企業経営とまったく同じ発想です。
すべての事業を同時に最適化しようとする経営者は、たいてい全部を中途半端にします。
四半期ごとに1つの最重点を決める経営者が、結果として全体を伸ばします。
あなた自身を、ひとつの企業として、同じように経営してください。

「脳の資本家」とは誰か

私が考える「脳の資本家」とは、自分の脳という資本を、誰かに預けず、自分の手で経営する人のことです。
会社員でも、経営者でも、主婦・主夫でも、学生でも、退職者でも、誰でもなれます。
資格も学歴もいりません。
必要なのは、自分の脳を「資本」として認識し、その経営者として、毎日の小さな選択を意識的にすることだけです。
朝、何を食べるかを意識する。
昼、20分歩く時間を確保する。
夜、22時にスマホを置く。
週末、ぼんやりする時間を1時間取る。
月に1度、9セルを採点して、ボトルネックを点検する。
これらの行為のひとつひとつは、すべて「経営判断」です。

個人を超えて、家族・組織・社会へ

あなたが自分の脳の資本家になりはじめると、興味深いことが起きます。
家庭の中で、家族の脳のコンディションが、連鎖的に上がります。
職場で、チームのパフォーマンスが、なぜか上がります。
社会で、あなたの周りの人間関係の質が、底上げされていきます。
そして、これが100万人、1000万人と広がったとき、それは国家のBrain Capitalそのものになります。
第1章で紹介したWEFの議論は、結局のところ、こうした個人の選択の総和のことを語っているのです。
国家の脳資本を上げる方法は、政策で上から押しつけることではなく、ひとりひとりが自分の脳の資本家になることでしかありません。

この章のまとめ

BCS-OSは、3層×3要素=9セルの構造で、脳のコンディションを統合的に管理する設計図です。
このうち、いまのあなたの最弱セルを1つ特定し、90日改善を集中投下する。
このサイクルを、年4回回す。
それだけで、あなたの脳の資本は、複利で増えていきます。
そして、自分の脳を経営する人を、私たちは「脳の資本家」と呼びます。
あなたが脳の資本家になることは、家族、組織、社会の脳資本を、連鎖的に押し上げる、もっとも本質的な貢献です。